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名古屋地方裁判所 昭和54年(ワ)2229号 判決

原告

中島康光

ほか一名

被告

愛知ミタカ運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告中島康光に対し金一〇三万五、三〇七円、原告高木吉貴に対し金一一四万二、一二二円及び右各金員に対する昭和五三年四月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告中島康光に対して金一八三万二、六八〇円、原告高木吉貴に対して金二四八万六、八〇〇円及び右各金員に対する昭和五三年四月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五三年四月六日午前六時一五分ころ

(二) 場所 愛知県知立市牛田町湯山二〇番地先国道一号線道路上

(三) 加害車 大型貨物自動車(名古屋一一か三九一七号)

右運転者 被告谷川孝行(以下「被告谷川」という。)

(四) 被害車 普通貨物自動車(名古屋四五む六四四号)

(五) 被害者

(1) 被害車運転者 原告中島康光(以下「原告中島」という。)

(2) 被害車同乗者 原告高木吉貴(以下「原告高木」という。)

(六) 態様 追突

2  原告らの受傷、治療経過

(一) 原告中島について

(1) 受傷 脳震盪症、頸腕症候群、左肩部捻挫、頸部挫傷

(2) 治療経過

(イ) 昭和五三年四月六日ないし同年六月二八日(実日数一一日)

棚橋外科に通院治療

(ロ) 昭和五三年六月九日ないし同月一九日(実日数九日)

城西接骨院に通院治療

(ハ) 昭和五三年七月一日ないし同年一一月三〇日(実日数三八日)

前津神経科に通院治療

(二) 原告高木について

(1) 受傷 脳震盪症、頸腕症候群

(2) 治療経過

(イ) 昭和五三年四月六日ないし同年五月九日(実日数八日)

棚橋外科に通院

(ロ) 昭和五三年六月一三日ないし昭和五四年一月二五日(実日数六一日)

前津神経科に通院

3  責任原因

(一) 被告愛知ミタカ運輸株式会社(以下「被告会社」という。)について

被告会社は、本件事故当時、加害車の運行供用者であつた。

(二) 被告谷川について

被告谷川には、加害車の運転者として前方不注視の過失があつた。

4  損害

(一) 原告中島について

(1) 治療費 金二九万九、四二〇円

(2) 通院交通費

(イ) 城西接骨院分 金三、九六〇円

(ロ) 前津神経科分 金一万三、六八〇円

(3) 休業補償 金一一〇万九、六〇〇円

同原告は、本件事故のため七六日間休業を余儀なくされたが、事故前三か月間に金一三一万四、〇〇〇円の収入を得ていたので、本件事故により、一日当り金一万四、六〇〇円の割合による七六日分、合計金一一〇万九、六〇〇円の収入を失つた。

(4) 慰藉料 金六〇万円

(5) 弁護士費用 金一三万八、四八六円

(二) 原告高木について

(1) 治療費 金四四万〇、九二〇円

(2) 薬代 金五万七、九〇〇円

(3) 通院交通費 金一万九、六八〇円

(4) 休業補償 金一五一万六、六六六円

同原告は、本件事故のため九一日間休業を余儀なくされたが、事故前三か月間に金一五〇万円の収入を得ていたので、本件事故により、一日当り金一万六、六六六円の割合による九一日分、合計金一五一万六、六六六円の収入を失つた。

(5) 慰藉料 金七〇万円

(6) 弁護士費用 金一七万八、四三〇円

5  損害の填補

原告らは自動車損害賠償責任保険から次のとおり支払を受けた。

(一) 原告中島 金六五万九、四四〇円

(二) 原告高木 金九五万〇、八六〇円

6  よつて、原告らは、被告らに対し、連帯して原告中島については金一八三万二、六八〇円の、原告高木については金二四八万六、八〇〇円の本件事故による各損害金とそれぞれに対する不法行為の日の翌日である昭和五三年四月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実はいずれも知らない。

3  同3の事実はいずれも認める。

4  同4の(一)のうち(1)の事実は認めるが、その余の事実はすべて否認する。

同4の(二)のうち(1)の事実は認めるが、その余の事実はすべて否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

二  原告らの受傷、治療経過について

1  原告中島について

原告中島康光の本人尋問の結果により真正な成立を認めることのできる甲第一号証、第六号証、第八号証、原告中島康光の本人尋問の結果によれば、請求原因2の(一)の各事実を認めることができる。

2  原告高木について

原告高木吉貴の本人尋問の結果により真正な成立を認めることのできる甲第一四号証、第一六号証、原告高木吉貴の本人尋問の結果によれば、請求原因2の(二)の各事実を認めることができる。

三  責任原因

請求原因3の各事実は当事者間に争いがない。

四  損害

1  原告中島について

(一)  治療費 金二九万九、四二〇円

請求原因4の(一)の(1)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  通院交通費 金一万三、六八〇円

原告中島康光の本人尋問の結果真正な成立を認めることのできる甲第一〇号証によれば、原告中島は前津神経科への通院実日数三八日につき一日金三六〇円の割合による金一万三、六八〇円の通院交通費を費したことが認められる。なお、城西接骨院への通院交通費については右甲第一〇号証によつてはその相当性を認めることはできず、他に右相当性を認めるに足りる証拠はない。

(三)  休業補償 金六八万一、六四七円

(1) 原告中島康光の本人尋問の結果に前記二の1における認定事実を総合すれば、原告中島は本件事故当時自動車車庫、鉄骨等を扱う株式会社中島製作所の社長として同社を経営していたこと、同原告は、本件事故の治療のため前後を通じ実数にして少なくともその主張に係る七六日間の休業を余儀なくされたことを認めることができる。

(2) さらに、原告中島康光の本人尋問の結果により真正な成立を認めることのできる甲第二号証の一・二、甲第一一ないし第一三号証によれば、同原告が本件事故直前に同社から一か月金四三万八、〇〇〇円の給与を受け、昭和五二年一年間に金五二五万六、〇〇〇円の給料を支給されたとの源泉徴収票、休業損害証明書等が作成されていることが認められる。しかしながら、他方、原告中島康光の本人尋問の結果によれば、同社は、同原告、その近親者のほかには若干名の従業員がいたのみで、実質的には同原告の個人企業であつたところ、年間利益額すらはつきりせず経理があいまいであつたこと、同原告等の給料額も、もつぱら税対策上の観点から税理士と協議して定められたものであることが認められる。

(3) ところで、実質的には個人企業である会社において経営者たる会社役員に対し、会社から支給される報酬は、その名目が給与とされている場合であつても、その中に実質上の利益配当分を含むことが多いとみられるが、その利益配当分は労働対価としての性質を持たないと考えられるから、右会社役員の逸失利益は、現実に支給された金員の額を確定したうえ、右利益配当分の有無及びその額を判断してこれを右支給額から控除して算出するのが相当である。

右(2)における認定事実によれば、同原告に対して同社から支給される報酬の中には実質的利益配当分も当然に含まれていたものと認められるが、右認定事実によれば右利益配当分の額又はその割合はおろか、同原告に対する現実支給額の確定も不可能であると考えざるをえない。

そうすると、同原告の休業損害は同原告と同年齢の男子労働者の平均賃金を基礎として算出するよりほかないと考えられる。

(4) 当裁判所に顕著な賃金センサス昭和五二年第一巻第一表によれば、産業計、企業規模計、学歴計の三五歳から三九歳までの男子労働者のきまつて支給される現金給与額、年間賞与その他特別給与額は、それぞれ金二一万〇、六〇〇円、金七四万六、五〇〇円であるから、平均年収額は次式のとおり金三二七万三、七〇〇円となる。

21万0600円×12+74万6500円=327万3700円

(5) そうすると同原告の休業損害は次式のとおり金六八万一、六四七円となる。

327万3700円÷365×76=68万1647円

(四)  慰藉料 金六〇万円

本件事故の態様、原告中島の傷害の部位程度、治療の経過その他諸般の事情を総合すれば、同原告の慰藉料額を金六〇万円と認めるのが相当である。

2  原告高木について

(一)  治療費 金四四万〇、九二〇円

請求原因4の(二)の(1)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  薬代 金一万六、二〇〇円

原告高木吉貴の本人尋問の結果真正な成立を認めることができる甲第一九号証の一ないし六、原告高木吉貴の本人尋問の結果に前記二の2における認定事実を総合すれば、原告高木は昭和五三年五月二〇日から同年一二月二八日までの間に本件事故による傷の治療のため杉浦薬品フソウ店から湿布薬、貼り薬等の薬品を購入し、金一万六、二〇〇円を支出したこと、右薬品は棚橋外科での治療中断後転院前及び前津神経科に転院後に購入されたものであるが、前津神経科では湿布治療がされなかつたため補充的に使用されたことが認められ、右事実によれば右薬品代も損害としての相当性を有するものと判断される。

(三)  通院交通費 金一万九、六八〇円

原告高木吉貴の本人尋問の結果真正な成立を認めることのできる甲第一八号証によれば、原告高木は前津神経科への通院実日数六一日の内五七日につき一日金三二〇円の、内四日につき一日金三六〇円の各割合による合計金一万九、六八〇円の通院交通費を要したことが認められる。

(四)  休業補償 金八一万六、一八二円

(1) 原告高木吉貴の本人尋問の結果に前記二の2における認定事実を総合すれば、原告高木は、本件事故当時内装、看板の製造販売を業とする名シヨプロ工芸株式会社の代表取締役として同社を経営していたこと、同原告は、本件事故の治療のため前後を通じ実数にして少なくともその主張に係る九一日間の休業を余儀なくされたことを認めることができる。

(2) ところで、原告高木吉貫の本人尋問の結果により真正な成立を認めることのできる甲第三号証、第二〇号証、第二一号証によれば、原告高木が本件事故前に同社から一か月金五〇万円、年間で金六〇〇万円の給与の支給を受けていたとの源泉徴収票、休業損害証明書等が作成されていることが認められる。しかしながら、原告高木吉貴の本人尋問の結果によれば、同社も同原告、その近親者のほかには若干名の従業員がいたのみで、実質的に同原告の個人企業であつたところ、同原告、その近親者の給与額は主として税対策、年金対策等の観点から定められ、経理は税理士に委ねられ、代表者の同原告にすらはつきりしないほどあいまいであることが認められ、右認定事実によれば、同社においても同原告に対する現実支給額、実質的利益の額を確定することは不可能であるから、同原告の休業損害も同年齢の男子労働者の平均賃金によつて算出するほかないと考えられる。

(3) 前記1の(三)の(4)において検討したとおり昭和五二年の三五歳から三九歳までの男子労働者の平均年収額は金三二七万三、七〇〇円であるから、同原告の休業損害は、次式のとおり金八一万六、一八二円となる。

327万3700円÷365×91=81万6182円

(五)  慰藉料 金七〇万円

本件事故の態様、原告高木の傷害の部位程度、治療の経過その他諸般の事情を総合すれば、同原告の慰藉料額を金七〇万円と認めるのが相当である。

五  損害の填補

請求原因5の各事実は原告らにおいて自認するところであるから、原告中島については前記四の1の合計額金一五九万四、七四七円から右金六五万九、四四〇円を控除すると残損害は金九三万五、三〇七円となり、原告高木については前記四の2の合計額金一九九万二、九八二円から右金九五万〇、八六〇円を控除すると残損害は金一〇四万二、一二二円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと原告らが被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は原告各自についてそれぞれ金一〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

以上のとおりであつて、原告らの本訴請求は、被告らに対し、連帯して、原告中島については金一〇三万五、三〇七円の、原告高木については金一一四万二、一二二円の本件事故による各損害金とそれぞれに対する本件事故の翌日である昭和五三年四月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があり、その余はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 成田喜達)

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